スピンオフ:裏生徒会長の優雅な策略
【第4回(最終回)】 優雅な勝利と、祭りの後
10.ステージ上の迷演説
そして迎えた、文化祭当日。 快晴の空の下、グラウンドに設置された特設ステージには、全校生徒の熱狂的な視線が注がれていた。 オープニングセレモニー。 マイクを握っているのは、もちろん一ノ瀬翔太会長だ。
「みなさん! 今日は文化祭です!」 わぁぁぁぁっ! と女子生徒たちの黄色い歓声が上がる。 一ノ瀬は爽やかに手を振り、キラースマイルを振りまきながら続けた。
「今日という日は、一年で今日しかありません。明日は、今日の次の日です。だからこそ、今この瞬間を楽しみましょう!」 「キャーーッ! 会長ステキーーッ!」 「楽しむということは、笑顔になるということです。笑顔になれば、楽しくなります。それが、楽しむということだと、僕は確信しています!」
中身のないトートロジー(同語反復)が、スピーカーを通して大音量で校内に響き渡る。 しかし、会場は大盛り上がりだ。 生徒会室の窓からその様子を見下ろしていた佐伯結衣は、呆れを通り越して感心していた。 「……ある意味、才能よね。中身がないからこそ、誰の心にも引っかからず、雰囲気だけで盛り上げられる」 「先輩の書いた原稿、一行も読んでませんでしたね……」 隣で書記のミナミが苦笑いする。 「ま、いいわ。平和が守られたんだもの。……さ、行くわよミナミ。休憩時間よ」
11.守られた笑顔
結衣は生徒会室を出て、賑わう校内へと繰り出した。 廊下は装飾で彩られ、模擬店からはいい匂いが漂っている。 鬼瓦の妨害を退け、守り抜いた景色だ。
「いらっしゃいませー! 焼きそばいかがですかー!」 グラウンドの一角で、元気な声が響いていた。 本編の中学生、神楽坂葵だ。彼女の周りには、蒼井悠真や浜田健太たちも集まり、忙しそうに、でも楽しそうに手伝っている。 「あ、結衣先輩!」 葵が結衣に気づいて手を振る。 「葵、繁盛してるわね」 「はい! おかげさまで! 結衣先輩が予算守ってくれたおかげで、鉄板持ち込めました!」 「ふふ、鉄板がないと『かぐらや』の味が出ないものね」
結衣は焼きそばを受け取り、少し離れた場所から彼らを眺めた。 悠真がカメラを構え、みんなの笑顔を撮っている。 そのファインダーの先にある「当たり前の青春」を守るために、私は戦ったのだ。 そう思うと、無駄に時間をかけたメイクの下の素顔が、少しだけ緩む気がした。
「……あ、佐竹先輩!」 中学生たちが、受験勉強の息抜きに来ていた中学三年生の佐竹涼子に声をかけている。 涼子は少し疲れた顔をしていたが、後輩たちに囲まれて笑顔を見せている。 (あの子も、大変な時期ね……) 結衣は焼きそばを啜りながら、心の中でエールを送った。 頑張りなさい。あんたたちの未来を守るのが、私たち先輩の役目なんだから。
12.計算ミスの収支決算
祭りの後。 夕暮れの生徒会室に戻った結衣は、付け爪を外し、つけまつげをケースにしまっていた。 「……あー、疲れた。肩凝った」 すっぴんに近い状態に戻った結衣は、ただの疲れた女子高生だ。 「先輩、お疲れ様でした。……結局、今年も一番働いてましたね」 ミナミが紅茶を淹れてくれる。 「本当よ。私の時給換算、いくらだと思ってるの」 結衣はため息をついた。
「でも、先輩」 ミナミが窓の外、片付けをする生徒たちを見ながら言った。 「あの中学生たち、すごく楽しそうでしたよ。『来年も絶対来る』って言ってました」 「……そう」 「先輩の『計算ミス』のおかげで、みんなの笑顔が守られましたね」
結衣は紅茶を口に含み、フンと鼻を鳴らした。 「……勘違いしないでよね。私はただ、自分の美学に従っただけよ」 そう言いながらも、窓ガラスに映る自分の顔が、まんざらでもない表情をしていることに気づいて、結衣は慌てて顔を背けた。
「……それにしても」 結衣は手鏡を覗き込んだ。 「このギャルメイク、やっぱり時間かかりすぎだわ。来年こそは、もっと効率的なキャラ設定に変えるわよ」 「えっ、今更ですか? もう手遅れじゃ……」 「諦めたらそこで試合終了よ。……そうだわ、来年は『病弱な文学少女』設定でいくわ。それなら仕事振られないはず」 「絶対無理です。一ノ瀬会長が泣きますよ」
ドアが開き、打ち上げ終わりの一ノ瀬会長が戻ってきた。 「結衣ちゃん先生〜! 俺、今日のスピーチ最高だったでしょ!?」 「うるさい翔太。反省文書きなさい。400字詰め原稿用紙3枚」 「ええっ!? なんでぇ!?」 「内容は『中身のない発言がいかに組織の生産性を下げるか』についてよ。……あと、『セクシー』って言葉禁止ね」
生徒会室に、いつもの日常が戻ってくる。 見た目はギャル、頭脳はトップ、そして中身は不器用な「裏生徒会長」佐伯結衣。 彼女の優雅で、計算高くて、でもやっぱりちょっと抜けている策略の日々は、まだしばらく続きそうだ。
すべては、この学校の平和と、自分のプライドを守るために。
(完)