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第7話:特別課題『捨て猫の恩返し』 ~ヤンキーと肉球の絆~

第7話:特別課題『捨て猫の恩返し』 ~ヤンキーと肉球の絆~

 臨海学校の三日目。  俺たちは「自由行動」の時間を利用して、宿の裏手にある寂れた神社に来ていた。

「へへッ、やっぱりシャバの空気はうめえな(吸ってないけど)」

 特攻服のブッコミが、神社の石段に腰掛けて笑う。  普段は強面で短気なこいつも、今夜は妙に機嫌がいい。それもそのはず、ここはこの辺りでも有名な「野良猫の集会場」なのだ。

「にゃあ」

 草むらから、一匹の黒猫が姿を現した。  片耳が欠け、目つきの鋭い、歴戦のボス猫といった風貌だ。

「……あ」

 ブッコミの表情が凍りついた。  彼は震える手で、その黒猫を指差した。

「……鉄(テツ)か? お前、鉄なのか?」

 黒猫は警戒して「シャーッ!」と威嚇したが、ブッコミは構わず涙ぐんでいる。

「俺だとは分からねえよな……。でも、そうか。生きてたか。あんなにちっこかったのに、立派なツラ構えになりやがって……」

 ブッコミが生前、嵐の川に飛び込んで助けた猫。それがこの「鉄」なのだろう。  自分が死んだ意味は無駄じゃなかった。その事実は、幽霊にとって何よりの救いだ。

 だが、その穏やかな時間は唐突に破られた。

 ガシャーン!!

 神社の入り口で、何かが砕ける音がした。  見ると、作業着を着たガラの悪い男たちが二人、猫のエサ皿を蹴飛ばして入ってきたところだった。

「ケッ、なんだここは。猫のクソだらけじゃねえか」 「おいシロ、ここを更地にして駐車場にするんだ。邪魔な猫どもは保健所に連絡して処分させろ」 「へいへい。おらっ、どけ駄猫!」

 男の一人が、逃げ遅れた子猫を足で追い払おうとする。  ボス猫の「鉄」が子猫を庇って前に出るが、男は鉄に向かってスパナを振り上げた。

「あァ? やる気かテメェ!」

 ブッコミの全身から、どす黒いオーラが噴き出した。

「俺のダチに何さらしてんだ……ぶっ殺すぞコラァ!!」

 ブッコミが猛ダッシュする。  その拳は硬く握りしめられ、明らかに「物理攻撃」で男を殴り飛ばそうとしていた。

(マズい!)

 俺は教官の言葉を思い出した。  『人を怪我させたら、即・地獄行き』。  あいつ、怒りでルールを忘れてやがる!

「待てブッコミ! やめろ!!」

 俺は背後からブッコミに飛びついた。  エリートとぬらり先輩も慌てて加勢し、暴れるブッコミを押さえ込む。

「離せ! あの野郎、鉄を殴ろうとしやがった! 許せねえ!」 「殴ったらお前が消えるんだよ! 地獄行きだぞ!」 「知ったことか! 鉄がやられるくらいなら、地獄でも何でも行ってやらぁ!」

 ブッコミが俺たちを振りほどこうとする。  その目からは、血の涙が流れていた。  このバカ、本気だ。自分の魂を犠牲にしてでも、猫を守ろうとしてる。

「……落ち着きたまえ、単細胞」

 エリートが眼鏡を光らせて言った。

「君が消えたら、誰が明日からあいつらを守るんだ? 君が地獄に行っている間に、この神社は駐車場になって終わりだぞ」 「……ッ!」 「暴力は三流の手段だ。我々は幽霊だろう? 幽霊らしく、『二度とここに来たくない』と思わせるほどビビらせてやればいい」

 エリートはニヤリと笑い、俺たちに目配せした。

「総員、戦闘配置。ターゲットはあの不法投棄業者2名。……手加減無用だ」

 ***

「なんだぁ? 急に寒くなりやがったな……」

 業者の男たちが身震いした。  ぬらり先輩が全霊力を使って、周囲の気温を10度下げたのだ。  さらに、みーちゃんが木の上から、子どもの笑い声を響かせる。

『あそぼ……ねえ、あそぼ……』 「ひっ!? なんだ今の声!?」

 男たちが怯えて後ずさる。  そこへ、教祖がお経のような低い唸り声をBGMとして流し始める。

「仕上げだブッコミ! 行ってこい!」

 俺の合図と共に、ブッコミが男たちの前に立ちはだかった。  もちろん、物理攻撃はしない。  その代わり、彼は自身の魂を燃やして、背後に巨大な『鬼の幻影』を作り出した。それは生前、彼が背負っていたチームの看板のようでもあり、守護神のようでもあった。

「あァァァァァン!? ここが誰のシマか分かってんのかコラァァァ!!」

 ブッコミの怒声が、雷鳴のように轟いた。  男たちの目には、特攻服を着た巨大な悪鬼が、自分たちを今にも噛み砕こうとしているように見えたはずだ。

「ひ、ひいいいいッ!!」 「で、出たァァァァ!! 化け物だァァァ!!」

 男たちはスパナを放り出し、転がるようにして逃げ出した。  車に乗り込み、タイヤを空転させながら去っていく。二度とここには戻ってこないだろう。

「……へっ、ザマァみやがれ」

 ブッコミは肩で息をしながら、膝をついた。  オーラを使い果たして、体が半透明になりかけている。

「にゃあ」

 足元に、ボス猫の鉄が擦り寄ってきた。  幽霊であるブッコミには触れられないはずだが、鉄は確信を持ったように、ブッコミの足がある場所へ頭をこすりつけている。  ゴロゴロ、という喉の音が聞こえた。

「……分かるのかよ、俺だって」

 ブッコミが震える手で、触れられない頭を撫でるふりをする。

「長生きしろよ、鉄。……またな」

 夜風が吹く中、俺たちは黙ってその光景を見ていた。  どこからともなく「ピピピッ」と音が鳴る。

「……判定」

 いつの間にか、教官が鳥居の上に座っていた。

「悪質な業者を撃退し、土地の守護霊としての役割を果たした。さらに、あのチンピラたちには一生消えないトラウマを植え付けたようだ」

 教官は優しく微笑んだ。

「全員にSTPプラス20点。……いい仕事だったぞ、特攻(ブッコミ)」

 ブッコミは照れ隠しに背を向け、袖で乱暴に顔を拭った。

「うるせえ。……サンキューな、みんな」

 こうして俺たちの絆は、また少しだけ深まったのだった。

(第7話・完)