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第4話:仮免試験『トンネルの怪』 ~安全第一の暴走族~

第4話:仮免試験『トンネルの怪』 ~安全第一の暴走族~

 ついにこの日がやってきた。  教習所の敷地を出て、現世の心霊スポットで行う初めての実地試験――「仮免許試験」だ。

「場所は、ここから西へ3キロの『旧・犬鳴(いぬなき)トンネル』だ」

 深夜2時。現場に到着した俺たちを見渡し、教官が言った。  湿った苔の匂い。ポタポタと落ちる水滴。雰囲気は抜群だ。

「ターゲットは、この後通りかかる一般車両。合格条件は、ドライバーをビビらせて『合計20STP』を獲得すること。制限時間は1時間だ」

 教官がストップウォッチを掲げる。

「では、はじめ!」

 教官が姿を消す(審判モードに入る)と同時に、エリートがバサッと作戦図を広げた。

「いいか、僕の計算通りに動けば必ず合格できる」

 彼は指示棒を振るった。

「まず、入り口付近でぬらりが『寒気』を演出。ドライバーの精神を不安定にさせる。次にトンネル中央でブッコミ教祖がラップ音(音響攻撃)を展開。注意を引いたところで、みーちゃんが白い着物で視界の端を横切る。そして最後に!」

 エリートが俺を指差した。

「出口付近で浪人(君)がバックミラーに映り込む。この完璧な『恐怖のフルコース』で、推定30ポイントは堅い」 「へいへい、分かりましたよリーダー」

 俺たちはそれぞれの持ち場についた。  俺の担当は出口付近の天井だ。スパイダーマンみたいに張り付いて待機する。

(頼むぞ……普通の怖がりなドライバーが来てくれ……)

 10分経過。  遠くから、車のエンジン音が聞こえてきた。

「来た! 作戦開始!」

 エリートの合図が飛ぶ。  よし、まずはぬらり先輩の寒気攻撃だ――と思ったその時だった。

 パラリラパラリラ!! バリバリバリバリ!!

 鼓膜をつんざくような爆音が、静寂を切り裂いた。  普通の車じゃない。改造マフラーを吹かした暴走族の集団だ!

「なっ……!?」

 エリートが絶句する間に、バイクの列が猛スピードでトンネルに突っ込んできた。

「ヒャッハー! 心霊スポットだぜェー! 幽霊どこだよオラァ!」

 マフラー音がうるさすぎて、ラップ音(ポルターガイスト)がかき消される!  ブッコミが看板を揺らしても、教祖が不気味な経を唱えても、エンジンの轟音にかき消されて全く届かない。

「くそっ、音が聞こえない! みーちゃん、視覚攻撃だ!」 「むりぃ! 速すぎて見てもらえないもん!」

 みーちゃんが飛び出そうとするが、バイクは時速80キロでカッ飛んでいく。  一瞬で通り過ぎてしまい、「なんか白いゴミ飛んでね?」程度の認識しかされない。

「け、計算外だ……! こんなDQN(ヤンキー)ども、想定していない!」

 エリートが頭を抱えてパニックになっている。  その横で、元ヤンのブッコミが震えていた。

「……あのテールランプ……『ブラックエンペラー』の残党か……懐かしいじゃねえか」 「感傷に浸ってる場合か! このままじゃ0点だぞ!」

 バイク集団はあっという間にトンネルを抜けようとしている。  マズい。俺のいる出口まで来てしまった。  このまま何もしなければ不合格。またあの地獄の補習授業だ。

(もう、どうにでもなれ!)

 俺は天井から身を乗り出した。  狙うは、最後尾を走っている一台のバイク!

「うおおおお! 止まれェェェェ!!」

 俺はダイビングした。  幽霊だから物理的なタックルはできない。俺の体はライダーをすり抜け――

 ガシッ。

 俺はバイクの「風防(カウル)」にしがみついた。  ライダーの顔は目の前、わずか5センチの距離。

「あ」 「ん?」

 兄ちゃんは最初、風で飛んできたゴミだと思ったらしい。  だが、俺はそこで違和感に気づいてしまった。

 暴走族のくせに、顎までしっかりガードされた有名メーカーの『フルフェイスヘルメット』を被っていたのだ。

「って、お前フルフェイスかよ! 暴走族なのに安全意識たけーな!」

 思わずツッコミを入れた瞬間、スモークシールドの奥にいる兄ちゃんと目が合った。  俺の顔は風圧でデロデロに崩れ、目玉は飛び出し、口は裂けんばかりに広がっているはずだ。

「ギャァァァァ! バ、バケモノォォォ!」 「失礼な! ただの浪人生だ!」

 ライダーは恐怖のあまりハンドル操作を誤り、蛇行運転を始めた。  そして――

 キキィーッ! ズサァァァーッ!

 バイクは草むらに突っ込み、転倒した。  ライダーはフルフェイスのおかげで無傷だったが、腰を抜かして動けなくなっている。やっぱり安全第一じゃねーか。

「はぁ、はぁ……死ぬかと思った……(死んでるけど)」

 俺がふらふらとバイクから離れると、どこからともなく「ピピピッ」という電子音が鳴り響いた。  教官が草むらから現れる。

「……判定」

 教官は腰を抜かしたライダーと、ドロドロになった俺の顔を見比べた。

「ターゲットの心拍数はMAX。悲鳴のデシベルも合格ライン。そして何より……」

 教官はタブレットをタップした。

「『必死すぎて逆に怖い』という新ジャンルを開拓した点を評価する。浪人、単独で+25点!」 「やったあぁぁぁ!」

 こうして、俺たちはギリギリで仮免許試験をパスした。  エリートは「あんな野蛮な方法は美学に反する」とブツブツ言っていたが、その顔はどこかホッとしていた。

 ちなみに、その日以降、地元の走り屋たちの間で「犬鳴トンネルには、交通安全を指導してくるジャージの悪霊が出る」という妙な噂が広まったらしい。  ……悪霊じゃねえよ。

(第4話・完)