最終話:あばよ、地縛予備軍! ~俺たちの幽霊ライフはこれからだ~
卒業検定から数日後。 俺たちは、最初に集められたあの教室にいた。 あの日と同じパイプ椅子。けれど、そこに座る俺たちの顔つきは、もう「死んだ魚」のような目ではなかった。
「……第104期・第4教場。全員、起立」
教官の声が響く。 俺たちは一斉に立ち上がった。
「お前たちは当初、箸にも棒にもかからないクズ霊の集まりだった。協調性は皆無、霊力は貧弱、やる気もゼロ。地獄行き確実の『地縛予備軍』だと思っていた」
教官は少しだけ口元を緩めた。
「だが、お前たちは生き残った。ルールを守り、仲間と協力し、そして最後には……生前の未練という最大の敵を乗り越えた。文句なしの合格だ」
教官の手から、黄金色に輝くカードが配られた。 『幽霊免許証(ゴールド)』だ。
「これより、それぞれの『配属先』を発表する。これはお前たちが今後、数十年から数百年にわたって守護、あるいは支配する場所だ」
みんなが息を飲む。 第2の人生(死後生)の舞台が決まる瞬間だ。
「まずはエリート。貴様は大手商社の本社ビル、役員会議室だ」 「フッ、当然ですね。日本の経済を裏から牛耳ってみせますよ」
「次にブッコミ。貴様は北関東の峠、ヘアピンカーブ第3コーナー」 「しゃあ! 走り屋どもに交通安全(ビビり運転)を叩き込んでやるぜ!」
「ぬらり。貴様は国税局の地下資料室だ」 「落ち着きそうな場所ですねぇ……誰にも気づかれずにホコリを守ります……」
「みーちゃん。貴様は深夜のテレビ局・第1スタジオ」 「わぁい! またテレビに出られるんだね! 今度は全部『心霊特番』だけど!」
「教祖。貴様は……潰れかけの怪しい占い館だ」 「ほう、悪くない。迷える客を恐怖と説法で導いてやろう」
次々と名前が呼ばれ、仲間たちが喜びの声を上げる。 残るは俺だけだ。 俺の適性からして、予備校の寮か、あるいは万年床のアパートか……。
「最後、浪人」 「はい!」
「お前の配属先だが……どこにもない」 「……はい?」
俺は耳を疑った。 どこにもない? まさか、俺だけ合格取り消し!?
「違う。お前には『教官見習い』として、この教習所に残ってもらう」
「はあああぁぁ!?」
教室中が驚愕に包まれた。
「な、なんで俺が!?」 「お前の『ドジ踏んで結果オーライ』というスタイルは、計算では生み出せない奇跡だ。それに……」
教官はニヤリと笑った。
「落ちこぼれの気持ちが一番わかるのは、お前だからな。来期から来るダメな新入生たちの面倒を見てやってくれ」
***
――そして、別れの時。 校門の前で、俺たちは互いの健闘を誓い合った。
「世話になったな、浪人……いや、先生」 エリートが右手を差し出してくる。 「よせよ。またいつでも会えるさ」 「ああ。また地獄の同窓会でな」
ブッコミがバイク(霊柩車仕様)に跨り、みーちゃんが手を振り、ぬらり先輩がペコペコと頭を下げる。教祖は最後まで「寄付を頼む」と言っていた。
みんな、それぞれの場所へ消えていく。 寂しくないと言えば嘘になる。 でも、俺たちには「100 STP」を稼いだ自信と、バカげた日々の思い出がある。
「さて、と」
俺は腕章を巻き直し、新しいジャージの襟を正した。 校門の向こうから、不安そうな顔をした新しい幽霊たちが歩いてくるのが見える。 まるで、あの日の俺たちのような顔だ。
俺は大きく息を吸い込み、先輩風を吹かせて叫んだ。
「ようこそ、地獄の入り口へ! ビビってんじゃねーぞ新人ども! 死ぬ気で教えてやるから覚悟しろ!」
俺のエリート幽霊への道は、まだ始まったばかりだ。 さあ、授業開始だ!
(完)