YMO世代の気持ち

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第1話:入学! 地獄の第4教場と、死の偏差値

第1話:入学! 地獄の第4教場と、死の偏差値

「あ、これ死んだわ」

 俺がそう思ったのは、自分の身体を天井付近から見下ろしていることに気づいた時だった。  眼下には、散らかり放題の万年床。読みかけの参考書。そして、カップ麺の残り汁をぶちまけて倒れている、見覚えのあるジャージ姿の男――つまり俺だ。

 死因? ああ、思い出した。  深夜の夜食タイム。お湯を入れたカップ麺を持って部屋に戻った時、足元で飼い猫の『タマ』が伸びをしたんだ。  避(よ)けようとして、足がもつれて、宙を舞って、部屋の柱の角に後頭部をクリーンヒット。

 享年二十歳。職業、浪人生(二年目)。  大学合格の通知を見ることもなく、俺の人生はあっけなく幕を閉じた……はずだった。

「……で、ここどこだよ」

 気づくと、俺は硬いパイプ椅子に座らされていた。  学校の教室によく似ているが、窓の外は吸い込まれそうな漆黒の闇。  そして周りには、俺と同じように呆然とした顔の老若男女が数十人、座らされている。  全員、体がうっすらと透けていた。

「おい、そこの下民(げみん)。私の肩を揉め」

 右隣から、やけに偉そうな声がした。  見ると、悪趣味な金ピカの法衣をまとった、髭面のオッサンがふんぞり返っている。

「は? なんで俺が」 「口答えするな! 私は崇高なる『大宇宙(マクロコスモス)宝くじ絶対当選・金運爆上げ教』の教祖、神宮寺(じんぐうじ)だぞ! 生前は三万人の信者が、私の足の指を舐めてご利益を求めたのだ!」 「うわ、名前も行動も胡散臭ェ! 知らねーよ、自分で揉めよ」 「バカ者! 私は生前、札束より重い物を持ったことがないのだ!」

 ダメだこいつ。関わっちゃいけないタイプだ。  俺が視線を左に向けると、今度はガタガタと小刻みに震えている中年サラリーマンがいた。

「ひっ、す、すみません……! 酸素吸ってすみません……死んでるから吸ってないけど……視界に入ってすみません……!」 「いや、別になにも言ってませんけど」 「いえ! 私のような万年係長は、存在するだけでハラスメントなんです……ああっ、そこの怖い人と目が合った! 申し訳ありませんんんッ!」

 サラリーマンは机の下に潜り込んでしまった。  なんだこのカオスな空間は。動物園か?

 さらに後ろの席からは、ドカッ、バキッ、という破壊音が聞こえる。

「あァ? なんだその目は。テメェどこ中だオラ」

 特攻服を着たリーゼントの男が、ガン飛ばし全開でメンチを切っている。机はすでにひしゃげていた。  そして、その向かいには、パリッとしたスーツを着こなしたインテリ眼鏡の男が、呆れ顔でタブレット(なぜか木製)を操作している。

「静かにしたまえ。君の貧弱なボキャブラリーを聞かされると、私の偏差値まで下がりそうだ」 「あんだとコラ優等生! 表出ろや!」 「出られないよ。ここは閉鎖空間だ。君は物理法則だけでなく状況判断もできないのか?」

 一触即発の空気。  俺が頭を抱えていると、不意に袖をクイクイと引っ張られた。

「おにいちゃん……」

 見下ろすと、大きなクマのぬいぐるみを抱いた、愛らしい幼女が立っていた。  大きな瞳が涙で潤んでいる。か、かわいい。ここだけが癒やしか。

「こわいよぉ……おしっこもれちゃう……」 「だ、大丈夫だよ! お兄ちゃんがついてるからね!」

 俺が慌てて頭を撫でようとすると、幼女はニタリと口の端を歪めた。

「……って言っておけば、チョロい大人はイチコロだよねぇ。ねっ、おにいちゃん♡」 「!?」

 前言撤回。ここも地獄だ。  その時、教室の扉がガラッと開き、冷気が吹き込んだ。

「着席ィーッ!!」

 怒号と共に、黒板消しが超音速で飛んできた。  それはリーゼント男の顔面に直撃し、白煙を上げる。

「グハッ!?」 「授業開始のチャイムも聞こえんのか貴様らは! ……あー、おはようございます。クズの諸君」

 教壇に立ったのは、顔色の悪さが死人レベル(死人だが)の教官だ。手には出席簿代わりのタブレット端末を持っている。

「これより、第104期・幽霊教習所のクラス分けを発表する。お前たちのような『訳あり』『未練たらたら』『協調性皆無』の落ちこぼれが集められたのが、この第4教場だ」

 教場内がざわつく。  教官は黒板に、カツカツと大きな文字を書いた。

『目標:100 STP(ショック・テラー・ポイント)』

「エス……ティーピー?」  俺が間の抜けた声を上げると、教官は冷ややかな目で俺を見た。

「そうだ。貴様らの左胸には、入校と同時に『霊魂プレート』が埋め込まれている。見てみろ」

 言われて自分の胸を見ると、ジャージの上にうっすらと発光するデジタル数字が浮かんでいた。  現在の数値は『0』

「これから行う講義や実習で人間をビビらせるたびに、俺がこのタブレットでポイントを加算する。悲鳴の大きさ、心拍数の上昇率、そして『どれだけトラウマを植え付けたか』。これが評価基準だ」

 教官の目が、妖しく光る。

「卒業までに100ポイント貯まった者から、順次『免許交付』となり、ここを卒業できる。だが……」

 教官の声のトーンが落ちる。

「期限内に100ポイント貯まらなかった者、あるいは禁止行為によりポイントが『マイナス50』に達した者は……」

 教官が床をドン! と踏み鳴らした。  その瞬間、教室の中央の床がパカッと開き、真っ赤な炎と恐ろしい獣の唸り声が聞こえてきた。

「こ、これは……!?」 「補習室だ。通称『無限灼熱地獄』。そこに落ちれば、二度と現世には戻れない。永遠に熱湯風呂とサウナの繰り返しだ」

「ヒィッ!?」  机の下で、サラリーマンが真っ青になって震え上がった。

「ちなみに、人を怪我させたり、呪い殺したりしたら即発動だ。一発アウトで地獄行き。分かったか?」

 教場に沈黙が落ちる。  つまり、こういうことだ。  『相手を怪我させず、笑われず、かつトラウマになるほど怖がらせろ。失敗したら地獄』

「そ、そんなの無理ゲーですよ! 俺たち落ちこぼれなんですよ!?」

 俺が抗議すると、教官はニヤリと笑った。

「安心しろ。現在、第4教場の平均ポイントは……」

 教官が全員の胸の数値を確認する。

  • エリート眼鏡:0点
  • リーゼント(破壊魔):-10点(さっき机を壊したため)
  • サラリーマン(気配なし):0点
  • 教祖(何もしない):0点
  • 幼女(ぶりっ子):0点
  • 浪人(俺):0点

「……おっと失礼。リーゼントのせいで、開始前からマイナススタートだったな」 「あァ!? ふざけんな!」 「連帯責任だと言ったはずだ。貴様らは現在、地獄の釜のふちに指一本でぶら下がっている状態だ」

 教官はタブレットを操作し、俺たち6人を指差した。

「特にそこの6人。お前たちは今日から同じ班だ。寝食を共にし、切磋琢磨し、せいぜい足を引っ張り合え。チーム名は……そうだな、『地縛予備軍(じばくよびぐん)』とでも名乗っておけ」

「「「はあぁぁぁ!?」」」

 俺たちの絶叫が、暗闇の教室に木霊した。

 インチキ教祖、エリート気取り、破壊ヤンキー、卑屈なオッサン、腹黒幼女。そしてニートの俺。  最悪のメンバーによる、死んでからの青春(?)が幕を開けた瞬間だった。

(第1話・完)