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第25話:クリスマスの計画、ささやかな贈り物

地方都市のメロディ 〜桜舞う通学路〜

第25話:クリスマスの計画、ささやかな贈り物

二学期の終業式を終えると、街は一気にクリスマスモードへと突入した。 商店街のスピーカーからはジングルベルが流れ、街路樹にはささやかなイルミネーションが点灯する。 地方都市の冬は寒いが、この時期だけはどこか浮き足立った、温かい空気が漂っている。

「カンパーイ! メリークリスマス!」 六つのグラスが、鉄板の上でカチンと小気味よい音を立ててぶつかり合った。 場所はもちろん、いつもの「かぐらや」だ。 今日のテーブル席は、神楽坂葵の手によって少しだけ特別仕様になっていた。ナプキンが赤と緑のクリスマスカラーになり、卓上には小さなサンタクロースの置物が飾られている。

「はい、お待たせ! 今日のメインディッシュ、『かぐらや特製・クリスマスもんじゃ』だよ!」 葵が運んできたボウルを見て、全員が目を丸くした。 「……赤いな」 秋山陸斗が眼鏡の位置を直しながら呟く。 「トマトベースに、チーズとバジル、そして星型のパプリカ! 見た目も味もイタリアンなクリスマス仕様だよ!」 「すげぇ! ピザみたいないい匂いする!」 浜田健太が一番乗りでコテを構えた。

鉄板の上でジュウジュウと焼けるトマトソースの香ばしい匂いと、とろけるチーズの香り。 おしゃれなレストランのディナーもいいけれど、こうやって鉄板を囲んで、ハフハフと言いながらつつくクリスマスが、今の彼らには一番しっくりくる。

「うん、美味しい! 新感覚!」 桜庭陽菜が頬を緩ませる。 「意外と合うわね、トマトともんじゃ。……白ワインが欲しくなる味だわ(飲めないけど)」 藤沢琴音も満足げだ。

宴もたけなわになった頃、恒例のプレゼント交換が始まった。 音楽に合わせてプレゼントを回す、古典的だが一番盛り上がる方式だ。 BGM係の琴音がスマホを操作する。流れてきたのは、もちろん坂本龍一の『Merry Christmas Mr. Lawrence』……ではなく、アップテンポなジングルベルだ(今日はパーティーだから、と琴音は笑った)。

「ストップ!」 音楽が止まり、それぞれの手にプレゼントが渡る。 「おっ、俺のは……図書カード?」 健太が包装紙を開ける。それは琴音が用意したものだった。 「健太、漫画ばっかり読んでないで、たまには活字を読みなさい」 「えー、参考書は買わねぇぞー」 「じゃあ俺のは……プロテインシェイカー?」 陸斗の手には、健太からのプレゼントがあった。 「おう! ゲーマーも体が資本だ! 筋トレしろ陸斗!」 「……マウスより重いものは持ちたくないんだが」 文句を言い合いながらも、みんな楽しそうだ。

そして、蒼井悠真の手元に来たのは、陽菜からの包みだった。 「あ、それ私から……」 陽菜が少し恥ずかしそうに言う。 開けてみると、そこにはお洒落な革製のカメラストラップが入っていた。 「えっ、すごくいい色……。これ、欲しかったやつだ」 「本当? よかった……。悠真くんのカメラ、黒だから、少し明るい色が似合うかなって」 「ありがとう、陽菜。すぐに付け替えるよ」 悠真が微笑むと、陽菜は安心したように顔をほころばせた。

楽しい時間はあっという間に過ぎる。 ケーキを食べ終え、片付けを手伝った後、六人は店を出た。 「ごちそうさまでした!」 「お父さん、お母さんによろしく!」

外に出ると、空気がキーンと冷え切っていた。 白い息を吐きながら、駅前までみんなで歩く。 「じゃあ、よいお年を!」 「宿題早めに終わらせろよー!」 交差点で一人、また一人と別れていき、最後は悠真と陽菜の二人になった。

通学路の途中にある小さな公園。 街灯がベンチをぼんやりと照らしている。 「……楽しかったね」 陽菜がマフラーに顔を埋めながら言った。 「うん。トマトもんじゃ、意外と美味しかったし」 「ふふ、そうだね」

二人の間に、心地よい沈黙が流れる。 悠真は、ポケットに入れた新しいカメラストラップの感触を確かめた。 「陽菜、あのさ……」 「あっ、そうだ!」 悠真が言いかけたのと同時に、陽菜が立ち止まった。 彼女は持っていた手提げ袋の中から、ガサゴソと何かを取り出した。 「これ……悠真くんに」 差し出されたのは、掌サイズの小さなクリスマスリースだった。 松ぼっくりや、赤い木の実、綿花(コットンフラワー)などがバランスよく配置され、素朴だが温かみのあるデザインだ。 「これ、ボタニカル・デザイン部の活動で作ったの。余った材料で作った試作品みたいなものなんだけど……もしよかったら、部屋に飾ってくれる?」

悠真は、そのリースを両手で受け取った。 ドライフラワーの乾いた感触と、微かに香る植物の匂い。 既製品のような派手さはないけれど、陽菜が一つ一つ材料を選び、配置を考えて作ったことが伝わってくる。 それは、悠真が撮る写真のように、日常の中にある小さな美しさを集めたような作品だった。

「……すごいな。陽菜のセンス、やっぱり好きだよ」 悠真が素直に言うと、陽菜は街灯の下で真っ赤になった。 「そ、そうかな? ありがとう……」 「うん。すごく嬉しい。一番目立つところに飾るよ」 「えへへ……。よかった」

ふと、冷たい風が吹き抜け、枯れ葉が足元を転がっていった。 寒いはずなのに、体の芯が温かい。 「……来年も、みんなで集まりたいね」 「ああ。絶対集まろう」 「受験生になっても、大人になっても」 陽菜が悠真を見上げて言った。その瞳は、イルミネーションよりも綺麗に輝いていた。

悠真はカメラを取り出し(もちろんストラップはまだ古いままだが)、陽菜と、彼女がくれたリースを一緒にフレームに収めた。 「撮るよ」 カシャッ。 フラッシュは焚かない。街灯の明かりだけで撮ったその写真は、少し粒子が粗いけれど、その場の空気と温度を確かに捉えていた。

「じゃあ、また明日……じゃなくて、次は年末かな」 家の近くの分かれ道。 「うん。良いお年を、悠真くん」 「良いお年を、陽菜」

手を振って別れる。 悠真は自分の部屋に戻ると、早速勉強机の前の壁に、陽菜からもらったリースを飾った。 殺風景だった男の部屋に、そこだけポッと温かい灯りがともったようだ。 ベッドに寝転がり、天井を見上げる。 外は静かな冬の夜。 遠くで教会の鐘……ではなく、除夜の鐘の練習だろうか、ゴーンという音が微かに聞こえた気がした。 最高のクリスマスだった。 悠真は目を閉じ、今日一日の笑顔を反芻しながら、深い眠りへと落ちていった。

(第26話へつづく)