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第23話:紅葉と隠された場所

地方都市のメロディ 〜桜舞う通学路〜

第23話:紅葉と隠された場所

カレンダーが最後の一枚に変わろうとする頃、地方都市の山々は、最後にして最大の輝きを見せていた。 全山が燃えるような赤と黄色に染まり、冬の到来を前にした木々の生命力が、視界いっぱいに広がっている。

「うわぁ……! すごい!」 桜庭陽菜が自転車を降り、感嘆の声を上げた。 春に訪れた「緑ヶ丘の森」は、今や別世界のように色を変えていた。 空の青と、紅葉の赤。そのコントラストがあまりに鮮やかで、目が痛くなるほどだ。

「絶景だな。これぞ日本の秋って感じだ」 蒼井悠真もシャッターを切る手が止まらない。 今日は日曜日。期末テスト前の最後の息抜きとして、みんなで紅葉狩りにやってきたのだ。 ただし、今回の案内役は浜田健太だ。 「へへっ、驚くのはまだ早いぜ。今日はとっておきの場所に連れてってやるからな」 健太は自信満々に鼻を鳴らし、整備された遊歩道ではなく、獣道のような細い脇道へと足を踏み入れた。 「ちょっと健太、本当にこっちで合ってるの? 遭難したら承知しないわよ」 藤沢琴音がおっかなびっくりついていく。足元には落ち葉が分厚い絨毯のように積もっており、サクサク、カサカサと乾いた音を立てる。 「大丈夫だって! 小学生の頃、親父と山菜採りに来た時に見つけたんだ。俺たちだけの『秘密基地』になれる場所だぜ」

枯れ枝をかき分け、落ち葉の斜面を登ること約二十分。 息が上がり始めた頃、視界が急に開けた。 「……着いた!」

そこは、山の斜面から少し突き出した、岩棚のような場所だった。 周囲を高い木々に囲まれているため、下からは決して見えない。しかし、そこからは街が一望できた。 箱庭のように広がる家々、蛇行する川、そして遠くに見える海。 夕暮れ時にはまだ早いが、傾きかけた陽の光が街全体を金色に染め上げている。 そして何より、頭上には一本の巨大なイロハモミジが、真っ赤な傘を広げるように枝を伸ばしていた。

「すっごい……! こんな場所があったなんて!」 神楽坂葵が岩の端に駆け寄り、風を受ける。 「特等席だね。風も気持ちいいし、誰もいない」 秋山陸斗も、ここばかりは携帯ゲーム機を取り出す気になれないようで、景色に見入っている。

六人は、モミジの根元にレジャーシートを広げた。 それぞれが持ち寄った水筒からは、温かいお茶やココアの湯気が立ち上る。 「ふぅ……温まるわね」 琴音がお茶を啜り、眼鏡が曇るのを指で拭った。 「なんかさ、ここから見ると、俺たちの街ってちっぽけに見えるよな」 健太が胡座をかいて、眼下の街を指差した。 「あそこが学校、あそこが駅、んで、あの屋根が『かぐらや』か?」 「うん、そうみたい。あんなに小さいんだね」 葵が目を細める。

毎日通っている通学路も、悩み事も、テストの点数も。 こうして高いところから俯瞰して見ると、すべてがジオラマの中の出来事のように思えてくる。 「……石川さんが言ってた『通過点』って言葉、なんとなくわかる気がするな」 悠真がポツリと言った。 「ここから見ると、道はずっと続いてて、街の外まで繋がってる。僕たちは今、その途中を歩いてるだけなんだって」 陽菜がココアのカップを両手で包み込みながら頷く。 「うん。でもさ、ちっぽけだけど、あそこには私たちの全部があるんだよね。笑ったり、泣いたり、お腹すいたり」 「そうだな。今の俺たちの世界の全てだ」 陸斗が珍しくセンチメンタルに同意した。

風が吹き抜け、頭上のモミジから赤い葉がハラハラと舞い落ちてきた。 一枚が、陽菜の肩にふわりと乗る。 悠真は、その瞬間を逃さず切り取った。 燃えるような赤を背景に、少し寂しそうで、でも芯の強さを感じさせる陽菜の横顔。 春に撮った花壇の写真とは違う。 夏に撮った海での写真とも違う。 季節が巡るたびに、彼女の表情は少しずつ大人びていく。 それを記録できることが、悠真は嬉しくもあり、同時に胸が締め付けられるような切なさも感じた。

「ねえ、来年もまた来ようよ」 葵が言った。 「三年生になっても、高校生になっても。この場所は、私たちの秘密基地ってことで」 「賛成。受験勉強の息抜きには最高ね」 琴音が笑う。 「ここにWi-Fiがあれば完璧なんだが……」 「陸斗、空気読め」 健太が陸斗の背中を叩く。

六人は並んで座り、日が暮れるまで語り合った。 とりとめのない話。テレビの話、好きな音楽の話、最近ハマっているお菓子の話。 特別な言葉はいらない。 ただ、同じ景色を見て、同じ風を感じているだけでいい。 落ち葉の匂いと、冬の気配を含んだ冷たい空気。 その中で分け合う温かい飲み物の温度が、彼らの絆をより確かなものにしていく。

「……さて、そろそろ降りないと真っ暗になるぞ」 健太が立ち上がった。 「そうだね。足元危ないし」 悠真もカメラをバッグにしまった。 名残惜しいけれど、帰らなければならない。 日常が待っているあの街へ。

山を降りる頃には、空には一番星が光っていた。 冷え込みが厳しくなり、吐く息が白い。 「寒っ! ラーメン食いてぇ!」 「じゃあ、寄ってく? お父さんに言っとくよ」 「よっしゃあ!」

自転車のライトを点け、列をなして坂を下っていく。 背中の後ろには、闇に沈んだ紅葉の山と、秘密の場所。 僕たちはまた一つ、大切な場所を見つけた。 季節は冬へと向かうけれど、心の中には温かい灯火がともっていた。

(第24話へつづく)