はじめに──歯がゆい、という告白から
「Re:flection」は本当に良い曲だった。曲の構造がいかに理詰めで作られているかは
第1弾で、この曲がラキちゃんのキャリアに持つ意味は第2弾で書いた。三部作の最終回となる本稿は、曲を離れて、虹河ラキというVTuberそのものの話をしたい。
先に白状すると、この記事の出発点は「歯がゆさ」である。今年に入って配信は少なく、3ヶ月前からは月1回の配信を行うことが公表された。業界セミナーへの登壇(グリーンべるとの記事)など活動の場は変化しつつあるが、ファンとしては、もっと大きく羽ばたく彼女が見たいのだ。
ただ、この歯がゆさを愚痴で終わらせたくない。本稿の問いはこうだ──虹河ラキという存在には、個人勢のVTuberにはない構造的な制約がある。その制約の中で、彼女が外へ飛ぶための抜け道はどこにあるのか。 結論を先に言ってしまえば、それは音楽である。8年の歴史を掘り直し、制約の正体を見極めた先で、その結論に合流したい。
第一章:8年史──雀の涙の予算から始まった
VTuberになる前からいた
虹河ラキのお披露目は、YouTubeデビュー(2018年2月)ではない。その4ヶ月前、2017年10月の徳島「マチ★アソビvol.19」である。山佐はパラソルブースを出展し、山佐スロワールド・スロプラスのバーチャルサポーターに就任した新キャラクターとして彼女を初紹介した。藤真拓哉氏デザインの描き下ろしグッズの抽選会は連日大盛況だったという(遊技産業のマチ★アソビ出展レポート)。
ここで注目したいのは場所である。ホールでも業界展示会でもなく、アニメと地域振興の祭典マチアソビ。デビュー当日の2018年2月24日にも東京ゲーム音楽ショーの山佐ブースで告知キャンペーンをやっていた。肩書はアプリのサポーターでも、山佐が彼女を届けたかった相手は、業界ではなくオタクカルチャーの側だったのだ。
世知辛さは芸風ではなく実態だった
彼女のモデルと動作システムには、キズナアイらと同時代の黎明期を支えた技術「KiLA(Kigurumi Live Animator)」が技術協力していた。そのKiLA関係者が、デビュー直後のブログ(KiLA公式ブログ)にこんな内幕を書き残している。準備は2017年夏頃から始まり、マチアソビにモデルが間に合うかどうかの綱渡りだったこと(上半身だけで出撃する「ジオングスタイル」案があったとかなかったとか)。そして「ホントに雀の涙程度の予算しか付けられていないようです」──きっと上から「youtuber?そんなことやって何になるの?」と言われているのだろう、と。
プロフィールにある「山佐との関係:専属サポーター年間契約」も、設定ではなく本物の契約だったという。デビュー早々「契約更新できるのか」と崖っぷちをネタにされていた、あの「世知辛い」芸風は、実態そのものだったのである。
しかし見方を変えれば、これはすごい話だ。当時はLive2Dで動くVTuberという様式がまだ確立しておらず、フル3Dのリアルタイムアニメーションこそが「VTuberのやり方」だった時代。雀の涙の予算で、当時最も高コストで野心的な方式を選んで立ち上げているのだ。社内の懐疑論と戦いながら彼女を世に出した小さなチームの本気を、私はここに見る。
キズナアイと同じ景色の中に
黎明期を象徴する珍事件がある。2018年11月5日夜、YouTubeでの「虹河ラキ山佐スロワールド連動生放送」の最中に、あろうことか無関係のキズナアイの姿が数分間流れ込むという放送事故が起きたのだ。流れたのはBS日テレの特番の番宣VTR収録の様子で、スタッフと打ち合わせをする「素」のキズナアイがそのまま垂れ流しになった。当時ニュースサイトでも報じられた出来事である(ニコニコニュースの当時の記事)。その瞬間の映像は、今もニコニコに残っている。
報道では「両者に直接の関係はなく、映像がなぜ混線したのかは不明」とされた。当時のコメント欄では、同じ収録スタジオ、あるいは同じKiLA系の収録システムを使っていたからではないかと囁かれたが、真相は闇の中である。ただ、事実として、キズナアイは後にVTuberの「声まね」に挑戦した動画の中で、虹河ラキの声まねを披露している(該当動画・2分14秒あたりから)。並んでいるのは黎明期を代表するそうそうたる面々で、その中に彼女が入っているのだ。ラキちゃん本人も、キズナアイに声まねされたことを誇らしげに語っていた。表向きの接点がない二人の間に、現場の距離の近さを想像したくなる符合ではある。
ちなみにこの動画でキズナアイは「VTuber」ではなく「バーチャルYouTuber」と律儀に言っている。この言葉を世界で初めて名乗った本人は、略称を自分からは使わないことで知られていた。名付け親の矜持と、略称が定着する前の時代の空気──こんなところにも黎明期の地層が見える。そしてその地層の中に、虹河ラキの名前が刻まれている。「バーチャルYouTuber」と呼ばれていた時代から現役で歌い続けているVTuberが、今どれだけいるだろうか。黎明期のVTuberたちは、互いの息遣いが聞こえるほど近い場所で試行錯誤していたのだ。
虹河ラキは、VTuber史の最初のページに、キズナアイと同じ景色の中にいた。この放送事故は、図らずもその証明になっている。
卒業の正体──彼女ではなく、錨が消えた
2020年11月の卒業を覚えているセンパイは多いだろう。あの出来事の構造を、時系列で並べ直してみる。
- 2020年9月1日:山佐グループが遊技機事業の再編を発表。12月1日から遊技機関連事業を山佐ネクスト(2019年5月設立の100%子会社)に集約すると公表(グリーンべるとの当時の記事)
- この再編に伴い、彼女がサポーターを務めていた「山佐スロワールド」のサービス終了が決定
- 2020年11月19日:卒業配信。いわゆる「中の人」が本人登場するという当時としては異例の透明性で、山佐の準契約社員サポーターとしてマスコット活動は続けると公表(PANORAのレポート)
- 2020年12月1日:事業集約の実施
- 2021年8月:山佐ネクスト公式VTuberとして活動再開
KiLA関係者がデビュー時にわざわざ注釈していた一文がある。「虹河ラキは『山佐のキャラクター』ではなく、『山佐スロワールドのキャラクター』です」。この区別が、すべてを説明する。彼女の契約上の錨は会社ではなくアプリだった。だから組織再編でスロワールドが終わったとき、錨ごと消えた。彼女が失速したのではない。支えるべきサービスの方が先に終わったのだ。
そして見落とされがちだが、復帰後の彼女は「アプリのサポーター」から「会社そのものの公式VTuber」になっている。立場は、むしろ上がって帰ってきたのである。
なお復帰後の一時期、マネジメントは外部プロダクションに委託されていたが、現在は山佐ネクストが直接運用しているものと思われる(この段落は私の推測を含む)。ここで強調したいのは、upd8への参加もプロダクションへの委託も、運営主体は一貫して山佐(→山佐ネクスト)のままだったということだ。8年間、山佐は一度も彼女を手放していない。
そしてこの8年史は、見方を変えれば「制約の来歴」でもある。雀の涙の予算という制約。アプリに紐づいた契約という制約。組織再編という制約。彼女のキャリアは最初から制約と共にあり、そのたびに形を変えて生き延びてきた。この視点を持ったまま、現在地を見に行こう。
第二章:現在地──数字を直視する
応援記事だからこそ、数字から目を逸らさずに書く。Laki Stationのチャンネル登録者数は約5.4万人。後発である平和のVTuberが登場するキュインチャンネルは約12万人だ。もっともキュインチャンネルは平和の公式チャンネルを兼ねており、公式とVTuberチャンネルが分散している山佐との単純比較はできないのだが、2018年頃のVTuber人気ランキングに彼女の名前があったことを思うと、失速の印象を持つセンパイもいるだろう。私も正直、その一人だった。
だがこの数字には、少なくとも四つの構造要因が効いている。
第一に、卒業の空白。2020年11月から2021年8月まで約9ヶ月、チャンネルは事実上止まっていた。継続性に報酬を与えるYouTubeのアルゴリズムにとって、長期休止は登録者数の見た目以上に「勢い」を削る。
第二に、チャンネル戦略の違い。平和は機種情報もVTuberも一本のチャンネルに集約して導線を太くしている。会社としてYouTubeにどう投資するかという設計思想の差が、数字の差に直結している。
第三に、市場の膨張。2018年と今とでは、VTuber市場の規模が文字通り桁違いになった。絶対数を維持していても、相対的な位置は沈む。「失速」の体感には、彼女が減速した分と周囲が加速した分の両方が混ざっている。
第四に、扱うジャンルのハンデ。彼女は山佐のVTuberとして、パチスロアプリのプレイや機種関連の動画も担っている(ちなみに実機のがっつりした実況はやっていないし、そもそも本人はパチスロがあまり得意ではない。そこがまた良いのだが)。そしてパチスロ関連コンテンツというジャンルは、プラットフォーム上で広告や年齢の制限リスクを常に抱え、レコメンドにも乗りにくい。彼女は背負っている看板の時点で、ハンデを抱えて戦っているのだ。
ついでに言えば、最近の配信が2D中心であることを縮小のサインと読むのも早計だ。潤沢な資金を持つホロライブですら日常配信はLive2Dが主体で、フル3Dは「お披露目」やライブという特別な日のためにある。リアルタイム3Dは回すたびにコストが積み上がる仕組みであり、日常は2Dというのは業界全体が到達した最適解である。むしろ黎明期組の彼女は、様式が確立する前に最も高コストな3Dの税金を払った世代なのだ。
以上を踏まえて言う。これだけの逆風──雀の涙の予算、組織再編、9ヶ月の空白、本業のハンデ──を全部食らってなお、遊技機メーカーの単独VTuberとしてはおそらくトップの登録者数を維持している。これは失速の物語ではない。生存の物語である。
そして現在の彼女には、8年が生んだ無形の資産がある。同業の後輩たちからの敬意だ。平和のハルルナとのコラボは実に楽しいし、ハルルナも他の同業VTuberも、先輩として彼女を立ててくれる。ファンを「センパイ」と呼ぶ側だった彼女が、業界のVTuber界隈では全員のセンパイになっている──2017年のマチアソビから道を拓いた8年は、ちゃんとこういう形で残っているのだ。そしてリアルライブまで活動を広げているハルルナの存在は、「遊技機メーカーのVTuberでもそこまでやれる」ことの生きた実例でもある。
第三章:虹河ラキという制約
ここまで書いた上で、一番不都合な論点から逃げずにおきたい。彼女には、個人勢のVTuberにはない構造的な制約がある。三層に分けて書く。
第一の層は、IPの構造。 彼女は山佐ネクストのキャラクターであり、独立も移籍も「転生」もない。個人勢は自分の人気を持って歩けるが、彼女の運命は会社の経営判断と不可分だ。ただしこの制約は両刃である。会社のIPだったからこそ、卒業しても消滅せず、帰ってくることができた。個人勢の引退は、たいてい永遠なのだから。弱点と生存理由が、同じ場所にある。
第二の層は、看板の重さ。 第2弾で「アニメ主題歌へ」と書いたが、最大の壁はここにある。アニメの製作委員会側から見れば、パチスロメーカー公式VTuberの起用は、スポンサーへの配慮や視聴者層を考えて慎重にならざるを得ない場面があるだろう。これは正直に認める。ただし、遊技機業界とアニメ業界はタイアップ機を通じて既に深く結びついているし、彼女のデザインを手がけた藤真拓哉氏は元よりアニメの世界の人だ。壁は実在するが、鉄壁ではない。遊技機と既に縁のある作品から、あるいはまず楽曲提供やカバーからという段階的な道はある。
第三の層は、規制環境。 第二章で書いた通り、看板であるパチスロ関連コンテンツ自体がプラットフォーム上のハンデを抱えている。これは彼女の努力では変えられない。
音楽という抜け道
三層とも、外すことはできない制約だ。IPは山佐のものだし、看板は下ろせない。──だが、気づいてほしい。音楽だけは、この三層すべてを透過する。 曲には年齢制限もないし、看板を背負ったままでも歌は外へ届く。「Re:flection」がまさにそれを証明したばかりだ。かつてTOKYO WAVE!とNeko Hackerの手で楽曲が世界配信されていた前例もある。音楽は、虹河ラキという制約の内側から外界へ通じている、数少ない通路なのである。
第四章:願いと、その現実解
だから願いはシンプルだ。月1配信の公表を、私は「減ってしまった」ではなく「無理なく続けるという約束」として受け取っている。8年の世知辛い歴史を知った今なら、その約束の重さが分かる。感謝しかない。
そのうえで、あえてもう一歩を願いたい。願いの本丸は、前章で書いた通り音楽だ。抜け道が見えているのだから、そこへ資源を集中してほしい──ここからは、そのための具体策の話をする。
ひとつ提案したいのは、マネジメントの部分委託を、もう一度考えてみてはどうかということだ。「過去に上手くいかなかったのに?」という反応はあるだろう。だが8年史を振り返ってほしい。モデルと動作はKiLA、音楽はTOKYO WAVE!とNeko Hacker、VRライブはcluster──彼女の歴史で輝いている場面は、いつも外部のプロと組んだ場面なのだ。山佐は外部と組むのが下手な会社ではない。むしろ領域ごとにパートナーを見つけて成果を出してきた。上手くいかなかったのは「丸ごと委託」であって、外部の力を借りること自体ではない。
だから丸ごとではなく、領域別でいい。音楽はレーベルと(TOKYO WAVE!の前例そのものだ)、ライブやイベントは制作のプロと(ハルルナが実例だ)、配信運用の実務にはサポートの手を。日常は2Dで持続可能に、特別な日は3Dで華やかに──2019年のclusterでのVRライブ(当時のプレスリリース)という前例は、彼女自身が持っている。2021年当時と違い、いまはVTuberを支える産業自体が成熟していて、選べる相手の層がまるで違う。
そしてこれは、中の人の稼働を増やせという話ではない。担当声優さんには声優としての本業がある。ホロライブ型の物量を求めるのは筋違いで、願っているのは「今の稼働のまま、届く範囲を広げる」ことだ。運営の手数をプロの手で補うことは、そのための最も現実的な方法だと思う。第2弾で書いた「3ヶ月に一度の新曲」という夢物語も、この形なら夢物語ではなくなる。
おわりに──ファンにできること
とはいえ、外野の提案はしょせん外野の提案である。最後は、私たちセンパイの側の話をして締めたい。
「Re:flection」の熱を外へ運ぶのは、運営ではなくファンの仕事だ。再生すること。共有すること。感想を書くこと。この三部作の記事自体、私なりのその実践である。雀の涙の予算から始まって、組織再編の荒波を越えて、8年目にあの本気の一曲を届けてくれたチームと彼女に、「届いているよ」と返すことがファンにできる応援だと思う。
制約は、たぶんこれからも消えない。だが抜け道は、もう見つかっている。「Re:flection」が照らしたその道を、彼女が歌いながら進んでいくのを見届けたい。歯がゆさは、期待の裏返しである。虹河ラキはもっと飛べる。8年見てきたファンの確信として、そう書いてこの三部作を終える。
きらっきー☆
参考リンク
- 山佐 バーチャルサポーター「虹河ラキ」マチ★アソビにデビュー(遊技産業)
- 後発バーチャルyoutuber 虹河ラキ ちゃんが デビューしました(KiLA公式ブログ)
- ユーチューブで前代未聞の放送事故?(ニコニコニュース)
- 山佐、パチスロ関連業務を「山佐ネクスト」に集約(グリーンべると)
- 虹河ラキ、卒業配信で「中の人」も登場(PANORA)
- 虹河ラキ初のVRライブ「ぴょこ☆FES VR Vol.1 in cluster」開催決定(PR TIMES)
- キズナアイによるVTuber声まね動画(2分14秒〜が虹河ラキ)
- 業界セミナー登壇の記事(グリーンべると)
- 山佐ネクスト株式会社 企業情報
※本稿の「内製・直営体制」「卒業の背景」「委託の評価」等はいずれも公開情報に基づく一ファンの推測・私見を含みます。事実誤認があればコメントでご指摘ください。