ついに来た、復帰後初のオリジナル曲
虹河ラキの新オリジナル曲「Re:flection」が公開された。
まず何より、これは活動再開後、初のオリジナル曲である。第1期のオリジナル曲群から数えれば、実に6年ぶりの新作だ。歌ってみたやライブで歌声を聴かせてくれてはいたが、「ラキちゃん自身の新しい曲」となると本当に久しぶりで、センパイ諸氏(ファンのことです)が沸き立ったのも当然だと思う。私もその一人である。
そして驚いたのが曲調だ。従来のラキちゃんのオリジナル曲とは大分肌触りが違う、アップテンポで元気な、実に「今どき」の聴きやすい曲になっている。この曲がどれほど理詰めで設計されているかは前回の構造分析記事で書いた通りで、本稿はその続編として、この曲が虹河ラキというVTuberのキャリアの中でどんな意味を持つのか、そしてここからどこへ向かってほしいのか、というファンの願望込みの考察である。
これまでのオリジナル曲を振り返る
ラキちゃんの第1期オリジナル曲は、TOKYO WAVE!とのプロジェクトでNeko Hackerがプロデュースした一連の楽曲だった。「てをつなごう」「スタンバイ」「ほしがふるよる」──MVタイトルに「Feat. Neko Hacker」「Prod. Neko Hacker」と冠され、iTunesやSpotifyで世界配信までされていた、れっきとした本格派の音楽プロジェクトである。
これらの曲は、ウィスパーボイスを活かしたバラード寄りの静かな曲調が多かった印象がある──と書きかけて、手が止まる。「どれみのじゅもん」のような元気な曲もあったのだ。それでも第1期の曲を思い出すと、どこかしんみりした空気をまとって聴こえてしまう。
これはたぶん、曲のせいではない。あの曲たちが、2020年11月の卒業の記憶と分かちがたく結びついてしまったからだ。曲そのものの性質と、曲が背負ってしまった物語は別物である。元気な曲ですら、卒業を知った後の耳にはどこか切なく響く。曲の印象はリスナー側の物語に染まる──奇しくも「reflection(内省・反射)」というタイトルを考えるうえで、これは伏線になる話だと思う。
なお第1期には毛色の違う一曲として、山佐サウンドチーム制作の「カラフル」もあったことを記録しておく。これも後で効いてくる。
この曲、誰が作ったのか(私見)
「Re:flection」の作家クレジットは現時点で公表されていない。遊技機まわりのサウンドは作家名非公開が慣例なので驚きはないが、状況証拠を並べてみると面白いことになる。
- 間奏にキングパルサーのフレーズが引用されている。外部作家なら権利処理が要るところ、山佐内製なら自社IPでノーコストだ
- サビ終端のリフレイン数が×1→×2→×0→×3と推移する設計は、ステップアップ演出の文法が身体に染みた人の仕事に見える(詳細は前回記事)
- 山佐サウンドチームには「カラフル」というラキちゃん楽曲の前例がある
- 第1期には「Feat./Prod.を動画タイトルに明記する」慣行があったが、今回それがない
- Neko Hackerの署名であるギターサウンドが、今回の曲には鳴っていない
どれも単体では弱い証拠だが、5つ揃って同じ方向を指している。私は山佐内製説を推したい。もちろん非公開契約の外部作家という可能性は残るし、配信やカラオケ展開が進めばJASRACの作品データベースで答え合わせできる日が来るかもしれない。
ただ、もし内製だとしたら、これは結構すごいことだ。山佐のサウンドチームが、ストリーミング時代の曲の作り方をここまで研究して、本気の一曲を書いてきたことになるのだから。
そもそも虹河ラキはどう生まれたか──スマイル☆シューターの記憶
ここで少し歴史の話をしたい。
山佐がキャラクターコンテンツに挑戦したのは、ラキちゃんが最初ではない。2010年、山佐は「スマイル☆シューター」というキャラクタープロジェクトを立ち上げている。公式の看板は「ファンと一緒に育てる新しいタイプのアイドル」。バーチャルユニットとしてCD、PCゲーム、ラジオ、コミカライズと多面展開された。VTuberという言葉が生まれる遥か前に、山佐はバーチャルアイドルをやっていたのである。
このプロジェクト、個人的には遊技機化を狙っていたフシがあったと見ているのだが、機種化には至らず、2015年頃までに収束した。正直に言えば成功とは言い難かったと思う(あくまで一ファンの私見である)。
そして2018年2月、VTuberムーブメントのまさに黎明期に、虹河ラキがデビューする。注目すべきは、その設計思想だ。ラキちゃんは山佐の広報担当として生まれたのではなかった、と私は記憶している。当時の活動はゲーム実況、歌ってみた、ファンとの交流と間口が広く、2018年6月にはupd8に参加し、2019年8月にはclusterでVRライブまで開催している。パチスロメーカーの販促枠ではなく、VTuberシーンの住人として活動していたのだ。山佐は、VTuberという新しい表現そのものに魅力を感じて飛び込んだのだと思う。スマイル☆シューターと同じ轍──コンテンツを遊技機の手前の駒として設計すること──を踏まないように企画されたのではないか。
そしてもうひとつ、この二つのプロジェクトを繋ぐ縦糸がある。キャラクターデザインが、どちらも藤真拓哉氏なのだ。 山佐と藤真氏の付き合いは2010年から続いている。ラキちゃんは突然変異ではなく、山佐のキャラクターIP挑戦の、正統な第2章なのである。
素地は三拍子揃っている
改めて棚卸ししてみると、ラキちゃんの持ち札は強い。
歌唱力。 普段の甘い声からは想像がつかない歌の表現力は、VRライブをやり切った実績が証明している。
楽曲制作力。 「Re:flection」で証明された。頭サビ2秒、3分15秒、ステップアップ式のサビ設計──ストリーミング時代の文法を完全に理解した曲を作れる体制が、いま確かにある。
ビジュアル。 キャラクターデザインの藤真拓哉氏は、深夜アニメのキャラクター原案を何本も手がけてきた人である。ラキちゃんは生まれながらにアニメ級のビジュアルDNAを持っている。
これだけ揃っていて、あとは届け方だけ、なのだ。ファンは今回の新曲に熱狂している。この熱が外へ伝わる経路が太くなれば、と思わずにいられない。
だから提案したい──3ヶ月サイクルと、アニメ主題歌と
ここからは一ファンの勝手な願望である。
ひとつ。この路線の曲を、昭和のアイドルのように3ヶ月間隔で出してほしい。 四季ごとに新曲を出すという昭和の興行のリズムは、実は現代のプラットフォーム論と合流している。アルゴリズムの時代に効くのは一発の名曲より一定のリズムでの供給であることは、VTuber音楽シーンの成功例が証明している通りだ。6年待った身としては、次は3ヶ月で聴きたい。
ふたつ。山佐公式VTuberという立場に縛られず、アニメ主題歌のような外の分野に食い込む努力をしてほしい。 無茶を言っているつもりはない。第1期にはTOKYO WAVE!やNeko Hackerと組んで世界配信までした回路が実際に開いていたし、デザインの藤真氏は元よりアニメの世界の人だ。そして何より、ラキちゃんはそもそも遊技機の販促のために生まれたのではなく、新しい表現への挑戦として生まれた。つまりこれは方針転換のお願いではない。原点回帰のお願いなのである。
「Re:」に込めたい、四つ目の意味
最後に、タイトルの話をして締めたい。「Re:flection」の「Re:」には、少なくとも三つの読みが重なっているように見える。
一つ目は素直にreflection=内省・反射。卒業の記憶と結びついてしまった第1期の曲たちへの、振り返りとしての意味。
二つ目はRe:=再起。卒業と復帰という物語を経たキャラクターの、リスタートの宣言。
三つ目は事実として、この曲が復帰後初のオリジナル曲、つまり第2期の音楽活動の文字通りの起点であること。
三つの読みが、「光を散らして」という歌詞に収束していく。内省を抱えたうえで、光を放つ側に回る──命名の意図は知る由もないが、深読みし甲斐のある符合だと思う。
そして私は、ここに四つ目の意味を勝手に足したい。Re:チャレンジである。2010年のスマイル☆シューターから数えて16年、山佐がキャラクターコンテンツに賭けてきた挑戦の系譜が、いままた新しい一歩を踏み出す──そういう意味の「Re:」に、この曲がなってくれたらいい。
6年ぶりの新曲は、それを期待させるだけの本気の一曲だった。だからこそ、次を待っている。今度は6年ではなく、3ヶ月後に。
※本稿の「遊技機化を狙っていたフシ」「内製説」等はいずれも一ファンの推測・私見です。事実誤認があればコメントでご指摘ください。
この記事にある時期などはウラを取っていないので誤りがあるかもしれません。